"巨星"墜つ…追悼、レイ・ハリーハウゼン(その1)

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こんにちは、印度です。

もう皆さんもご存じかもしれませんが、
アメリカ映画界でモンスターエフェクツの第一人者として、一時代を築いた
レイ・ハリーハウゼンさんが、5月7日にロンドンで亡くなりました。
享年92歳でした。

Ray-Harryhausen

今、世界中の怪獣やモンスターの好きな人のほとんどが、
何らかの形でハリーハウゼンさんの作品に接してきたのではないでしょうか。

もし、ハリーハウゼンさんがいなかったら、
多分20世紀のモンスタームービーというのは、
かなり今とは違ったものになっていたのではないかと思います。

勿論、私もそのハリーハウゼンさん(以下敬称略)の作品に接して育った一人です。


Ray

子供の頃から、ゴジラやウルトラ怪獣の好きな、いわゆる怪獣小僧だった私が、
「怪獣の出てくる映画やTVは日本以外にもあるらしいぞ」
と気付いたのは、ちょうど小学校高学年でした。

TVの放送局がそもそも少なく(テレ東系の局は無かった)
深夜や昼下がりのTV映画劇場も見られない地方の田舎町で生まれ育った私にとって、
海外のSF映画やモンスター映画はちょっと遠い存在だったのです。

しかし70年代後半、一作目の『スターウォーズ』(1977)の公開の影響で、
日本にもSFブームが来ました。

ray

SF映画に関する本、特に子供向けの本もドッと出るようになり、
それを見ていると角の生えた一つ目の巨人や、
ヤマタノオロチみたいな大蛇の写真がよく載っていたのですが、
その時には一体どんな映画なのか知るよしもありません。

そんなある日の事、TVで『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)が放送されます。

アルゴ探検隊の大冒険 [DVD]
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そこで見たのは、
ギシギシ?と軋む音をさせながら立ち上がる青銅の巨人タロス、
七つの頭を持つ大蛇ヒドラ、
そしてヒドラのしゃれこうべから生まれる骸骨剣士軍団。

それまで見ていた、着ぐるみの日本怪獣とは全く異なるフォルム、
そして不思議な動きが少年だった私には衝撃的でした。

「アルゴ探検隊」の予告

「こんな怪獣見たことない・・・」

それまで、怪獣が好きでも
「どうやって怪獣が作られているのか?」
などという映画作りそのものには興味など無かった私が、

「あの怪獣は何だろう?
 どうやって作られたんだろう?誰が作ったんだろう?」

と疑問を持ち、映画の世界へと誘われる第一歩を踏み出します。

上手い具合に、当時のSFブームは「SFX」という特撮へのファンの関心も高めていたので、
本や雑誌で今風に言うと”メイキング”について解説文が度々載っていました。

私は、その中でもモンスター・エフェクト、
モンスターやクリーチャーを生み出す技法に関する文を色々読むうちに、
小さなモデルを少しづつ動かして、一コマ一コマ撮影し、
まるでモンスターが動いているように見える
ストップモーション・アニメーションという技術があることを知ります。

ray-harryhausen

そして、その特撮の神様こそがレイ・ハリーハウゼンという人物だったのです。

円谷英二こそが特撮の神様だと思っていた私にとって、もう一人の神様の出現でした。

時代は、ちょうど『ウルトラマンレオ』(1974)から『ウルトラマン80』(1980)まで続いた、
日本の特撮界から怪獣が姿を消していた空白の時期です。

怪獣を観たいのに、映画にもTVにもその姿が無い、そんな時代でした。

怪獣小僧になったのに、肝心の怪獣が見られなくなってしまった、
そんな間の悪い少年にとって、
外国にも怪獣映画があるという事実は、正に干天の慈雨といったところ。

art_w_harryhausen

着ぐるみの日本怪獣達も勿論大好きだけど、
一味違った姿と動きの海の向こうのまだ見ぬ怪獣達への想いは募りました。

生憎、80年代初めの田舎暮らしの少年にとって、
ハリーハウゼンの映画を見ることは容易でなく、
唯一の情報源だった雑誌の「スターログ」や「宇宙船」を読んでは想像を膨らますしかありませんでした。

何しろ、DVDはおろかビデオなどの映像ソフトも碌に出ていない時代です。
田舎には名画座も無く、ネットで映画を観るなどSFの世界でしかなかったような遙かな昔です。

次に見たハリーハウゼン作品は、
TVで放送された『シンドバッド虎の目大冒険』(1977)と
タイタンの戦い』(1981)の最晩年の二本でした。

「虎の目」の予告

黄金の巨人ミナトン、サーベルタイガー、そしてメデューサ。

やはり、着ぐるみではありえない独特のフォルムと、
ギクシャクしているようなスムースなような日本の怪獣にはほとんど見られない動きにすっかり魅了され、
私にとって「ストップモーション」は特別な意味を持つ言葉になりました。
(幼稚園児の頃に見ていた特撮ヒーローTV作品『魔人ハンターミツルギ』(1973)が同じ技術で作られていると知ったのも、この頃)

「タイタン」の予告

それから、バブル経済と共に日本にも映画をビデオソフトで観る時代がやってきました。
あれほど観たいと願っても、写真を見て空想を膨らますしか無かった
シンドバッド七回目の航海』(1958)、
恐竜百万年』(1966)、
恐竜グワンジ』(1968)といった全盛期の作品や、
原子怪獣現る』(1954)や
水爆と深海の怪物』(1955)といった初期作品まで全て観られる、まるで夢のような時代です。
後にも先にも、テクノロジーの恩恵をこれほど実感した事はありません。

その後、今は無き東京ファンタスティック映画祭で
アルゴ探検隊の大冒険』を、
東京国際映画祭で『水爆と深海の怪物
世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』(1956)
地球までの2千万マイル』(1957)のカラーライズ版を
劇場の大画面で観ることが出来たのも忘れ難い想い出です。

カラー化された「水爆と深海の怪物」

ギリシャ神話、アラビアン・ナイト、原始時代と色んな世界を舞台にした、
数々の作品に登場したハリーハウゼン作品のクリーチャー達は多彩です。
(ハリーハウゼン自身は、自ら生み出した怪物たちを”モンスター”とは呼びませんでした)

闇夜で灯台を襲うリドサウルスの詩情溢れる姿、
ゴールデンゲート・ブリッジを襲う突然変異ダコの巨大な脚(六本しかないのに、観ていても気がつかない!)
捕まえた人間を火炙りにする憎々しげなサイクロップス
原始人に丸太で串刺しにされるアロサウルス
カーボーイと戦う恐竜グワンジなどなど。

私にとって、そんなハリーハウゼン・クリーチャーのベスト3を挙げるとしたら、
まず『アルゴ探検隊の大冒険』に登場した青銅の巨人タロスです。

生命観溢れるハリーハウゼンのクリーチャーの中では、珍しく生気を感じない無機質な存在。
動き出す時の金属が軋むギシ?という音と共に立ち上がる姿が、巨大ロボ的でたまりません。

タロスの勇姿!

実際のギリシャ神話では等身大の銅像だったのを、
見上げるような巨人にアレンジしたハリーハウゼンのセンスも光っていました。

でも、踵の釘を抜かれるとすぐに倒れてしまうのが呆気なくて、ちょっと残念。
神話の中で語られている「全身から高熱を放って敵を焼き殺す」姿も見てみたかったなぁ・・・。

それから、『タイタンの戦い』の魔女メデューサ

魔女といっても完全にクリーチャー寄りの姿になっているのが、やはりハリーハウゼン風です。

神殿の柱の間をガラガラ蛇のような巨大な尻尾を振り回しながら這いまわる不気味な動きや、
人間を石にする魔力を発動するシーンの顔面大アップシーンのインパクトの強さも忘れ難いですね。

メデューサとの戦い

顔がアップになると、頭から生えている蛇の動きがよく見えるのも得した気分になって、嬉しかったものです。
御本人に言わせると、「この顔はベティ・デイヴィスとか、色んな女優を参考にしたんだよ」だそうで。

そして、私のベスト・ハリーハウゼン・クリーチャーは、『地球へ2千万マイル』の金星獣イーマです。

この作品は見ていると、このイーマが主人公のような筋立てになっています。
地球にやってきて、わけもわからないままに行く先々で人間に追われ、
襲われ、遂には戦って殺されるのですが、
このようにクリーチャーの生き様を深く掘り下げた作品はモンスター映画数あれど、決して多くはありません。

納屋のイーマ。これじゃ、動物虐待だよ…

犬猫サイズの時のランプの光に目をこする妙に可愛らしい仕草、
等身大で人間と取っ組み合いをする納屋のシーン、
巨大化してからのローマ市内でのゾウとのバトル、
そしてコロシアムで軍隊の集中砲火を浴びて落ちていく最期。

まるで、ハリーハウゼンが師である
ウィリス・H・オブライエンの永遠の名作
キング・コング』(1933)へオマージュを捧げた作品ではないか、と思えて仕方がありません。

こうして見るとコングへのオマージュ溢れるイーマ

そんな存在が皆さんにもきっとあることでしょう。
あなたにとって、お気に入りのハリーハウゼン・クリーチャーは何ですか?

そして次回は、ハリーハウゼン本人に会った、広島国際アニメフェスでの想い出など、
御蔵出しエピソードなどを紹介します。お楽しみに!

(その2へと続く↓)

ハリーハウゼンに会った日 追悼、レイ・ハリーハウゼン(その2) - 映画宝庫V3

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