アメコミの夏、日本の夏始まる 「アメイジング・スパイダーマン」

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お暑うございます、名前からして暑い印度です。
 いよいよ夏がやってきました。今年の夏は、昨年辺りから言われている事ですが、期待のアメコミ映画が次々と公開され、「夏休みアメリカまんが祭り」状態です。

その開幕を告げたのが現在公開中の「アメイジング・スパイダーマン」。
スパイダーマンと言えば、やはりゼロ年代にサム・ライミが作った三部作が今やスタンダードとなっています。完結編である『スパイダーマン3』(2007)から僅か数年でのリブート(再起動)は、ちょっと早過ぎるのではないか、そんな危惧もありました。

 でも、今こうしてアメコミ映画が大予算の超大作として次々と作られているなんて、昔を考えたら、夢のような事です。
元々アメコミは、日本でもかつては漫画がそうだったように、一般の小説や雑誌なんかよりも格下で低級な子供向けのジャンルでした。今では普通の書店(アメリカで)でも並んでいますが、長い間キオスクやスタンドで売られ、いわゆる「本」とは別の流通をしていた存在でした。

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 だから、1940年代に始まったアメコミの映像化は低予算の子供向け作品ばかり。
スパイダーマンも例外では無く、1970年代後半にTVムービー化されますが、貧乏臭くて子供心にも嫌だったものです。
当時マーベルとコラボしていた東映が、日本版『スパイダーマン』(1978‐1979)を作ったのも有名な話ですが、日本のヒーローものとして観れば「こういうのもアリかな」とも思えたものの、アメコミ好きとしては「別にスパイダーマンにしなくても・・・」という違和感もありました。


No.62 東映版 スパイダーマン 全名乗り口上 投稿者 nicorecorder
↑アニメ特撮の巨匠、渡辺宙明の音楽もノリノリ。変形ロボットも活躍する日本版。登場するごとに名乗りがありました。

 70年代後半は、マーベルやDCといったアメコミ大手が盛んに日本で翻訳版を出版している時期で、私もこの頃にアメコミの魅力に取りつかれ、今に至ります。だから、余計に原作とは違和感のあり過ぎる映像化作品にがっかりしたり、複雑だったりしました。


↑同時上映は「溶解人間」。この無理矢理感は凄いが、これに連れてったうちの親も凄い

 で、今回のリブートされた『アメイジング・スパイダーマン』ですが、ライミ版トリロジーでそのオリジン(誕生譚)についてはじっくりやっていますから、その辺はツボを抑えつつもサクッと済まし、前作では描かれることの無かった「ピーターと両親との関係」に着目。
ピーターの父は科学者で遺伝子を操作して生命体の能力を高める研究をしていたらしく、それが回り回ってピーターにスパイダーパワーを授けます。つまり、父の遺産がピーターをスパイダーマンにした、と言えるかもしれません。
しかし、同時にそのパワーは、もう一人の"父"だったベンおじさんの命を奪うきっかけにもなりました。スパイダーマンの世界に流れるテーマ「大いなる力には、大いなる責任が伴う」ことをここでも、ピーターは思い知らされるのです。

 スパイダーマンは、Xメンのような生まれながらのミュータントでもなく、スーパーマンのようにエイリアンでもなく、バットマンのようにトラウマを抱えた大富豪でもありません。ほんの偶然でスーパーパワーを授かった、普通の若者です。普通よりも、ちょっと要領の悪い、頭はいいけど鈍臭い、善良だけどイケてない、そんな少年です。

 そんな普通の人間が、悩みつつ、苦しみつつ、又ある時には犠牲を払いながらも、「皆のためになることをする責任」を果たそうと必死にもがくのがスパイダーマンというキャラクターの魅力であり、肝だと思います。もしピーターが善良でなければ、スパイダーパワーを私利私欲のために使うヴィラン(悪人)になってしまう可能性もありました。組織にも属さず、誰かへの復讐心があるわけでもない、只自分の心だけでヒーローたり得ている、そこがスパイダーマンというヒーローの偉大なところではないでしょうか。
力があるだけではヒーローではない、その力を正しく使う心が無ければ、ヴィランやモンスターと何も変わらない。アメコミでは繰り返し描かれるヒーロー像です。

 この映画の中でも、とても印象的なのが、橋の上でヴィランであるリザードが落した車から少年を救うシーンでした。
ピーターは川に落ちそうになって宙づりになっている車の中でおびえている少年に、スパイダーマンのマスクを渡し、「被れば勇気が出るよ」と励まします。そして、マスクを被った少年を無事に助け出し、橋の上で父親(懐かしや!C・トーマス・ハウエル!)が涙ぐみながら我が子を抱きしめる姿をじっと見ています。きっと、自分には経験出来なかった「父と子」の姿を見ているのでしょう。

このシーンがあるからこそ、クライマックスで警官に撃たれてしまったスパイダーマンを、「息子の命の恩人だ」とあの父親(建設会社の現場監督でした)がクレーンを集めて、街の中に"空中の橋"を作り、助けるシーンに感動があるのです。←ココ大切

 考えてみると、スパイダーマンは世界の危機やアメリカの危機は救いません。ニューヨークの街を守る、実はご当地ヒーローなのです。
だから、ライミ版の『スパイダーマン2』(2004)でも、ドクター・オクトパスと戦って暴走する地下鉄を止めて気を失ったスパイダーマンの素顔を見た乗客達が、ピーターに「大丈夫、誰にも話さないよ」と声をかける温かいシーンもあったように、ニューヨークの普通の人々とのニューヨーカーとしての絆や連帯感が、実は大事なファクターになっているのです。

 こういう風に、スパイダーマン世界の基本はしっかり押さえつつも、ピーターの両親の遺した秘密や、高校生活の描写(ちょっとイマドキのティーンドラマ風)が多いことなど、原作のコミックでいうと21世紀に入って、設定を今風にリニューアルした「アルティメット・スパイダーマン」の要素も入っているようにも思えました。
ライミ版があくまでスタンダードなスパイダーマンのイメージを遵守した作品だったのとは対象的で、新たなるスパイダーマン像を作り上げた、と言えそうです。

 その違いは、登場キャラにも見えます。ライミ版に出ていた恋人のメアリー・ジェーン(MJ)や、スパイダーマンを忌み嫌う新聞「デイリー・ビューグル(劇中に新聞だけ登場)」の社長J・ジョナ・ジェイムスン(JJJ)などのメジャーキャラをあえて出さず、MJ以前の恋人だったのに、グリーン・ゴブリンに殺された悲劇のヒロイン、グエンやその父でピーターの良き理解者だったステイシー警部が登場しているのも対象的ですね。

 映画の中でも、ピーターと同じ下町育ちの幼馴染だったライミ版のMJと違って、ミドル・クラス(ピーターの家とグエンのアパートの雰囲気の違いに注目)のお嬢さんでしっかり者のグエンは、いわば高嶺の花。ピーターがスパイダーマンになることで、手の届かない憧れの女の子ともつきあってしまう、今回の作品には、そんな明るさもあります。

 私が初めて読んだ「スパイダーマン」はちょうどグエンがヒロインだった時代の作品なので、グエンやステイシー警部が出てくると非常に感慨深いものもあります。この映画でも死んでゆくステイシー警部がピーターに「君はこの街に必要だ」と言うシーンで、ステイシー警部がピーターに「グエンを頼む」と言う、コミックの最期(1970年の「The Amazing Spider-Man #90」)を思い出しました。

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 ヒロインと言えば、ネット上では既に注目されていますが、ピーターの同級生の眼鏡っ娘ミッシー(ハンナ・マークス)がグッときます。体育館でスパイダーマン世界のジャイアンである、フラッシュにボールをぶつけられるシーンなんて、萌え?でした。

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 そして、最後になりましたが、やはりリザードにも触れないわけにはいきません。

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ライミ版のグリーン・ゴブリンやドクター・オクトパスが大名跡だとすると、リザードはヴィランとしては地味な中堅どころという感じ。しかし、逆にファンの強烈な思い入れもないので比較的自由にキャラを作れたという面もあるせいか、ヴィランというよりもモンスター的な暴れっぷりを見せています。
橋の上での大暴れ、下水道での戦い、クライマックスでの高層ビルの上の対決など、原作だとスパイダーマンもとかく穏便に済ませようとする傾向(元々悪人じゃないから)もあるのに、パワーがあり過ぎてガチで対決せざるを得なくなっている状況がよく出ていました。クリーチャーデザインも、よりトカゲっぽくなって、白衣を着たトカゲ男なコミックよりもこっちの方がいいよね、という感じです。

 リブートとしては、まずは成功と見ても良いでしょう。2014年公開予定の続編も楽しみですね。


Gameloft: The Amazing Spider-Man - Gameplay -... 投稿者 AppVideoReview
↑iPhoneやAndroidなどスマフォ版のゲーム。スマフォで動いてるのがビックリな高画質。しかも摩天楼を好き勝手に
飛びまわれる爽快感は価値あり。欠点は、よく固まる、落ちるorz…


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