『ザ・ウーマン』ジャック・ケッチャム&ラッキー・マッキーの”アメリカン・グランギニョール”傑作絵巻!

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こんばんわ。殿井です。

本日ご紹介する作品は今週末(10/20)から公開されるザ・ウーマンよ。
私的には2012ベストホラーの仲間入り!?という凄い作品の登場かも!

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弁護士のヘンリーは妻のベル、高校生の長女ペグ、
中学生の長男ブライアン、そしてまだ幼い次女のダーリンと、
アメリカのひなびた田舎町で暮らしていた。

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彼の趣味はハンティング
その日も獲物を求めて森の奥に分け入ったヘンリーは、川辺で一人の野生の女を目撃する。

その女にどす黒い興味と欲望を抱いたヘンリーは、
彼女を獲物として捕らえると、自宅の地下倉庫にその女を拉致監禁する。

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そして家族にその世話を命じると、ヘンリー自身は残虐非道な調教に耽(ふけ)っていく。

だがその女は単なる野人ではなく、その地域で密かに人間狩を続けて生き永らえてきた
食人一族の“長”にして最後の生き残りの“ザ・ウーマン”だったのだ…!

そして女の存在により、それぞれに秘密を抱えながらも表向きは平穏な生活を送っていた
ヘンリー一家の危ういバランスは崩れだし、やがて…!

胸糞が悪くなるお話を語らせたら天下一品。
同業の大家スティーヴン・キング等からも賞賛を受ける一方、
陰惨で暴力的な作風に拒否反応を起こす批評家や読者も少なくないという、
まさに正しいホラー作家ジャック・ケッチャム

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81年に書かれたデビュー長編の『オフシーズン』は中世スコットランドに実在したとされる
食人族ソニー・ビーンとその一族をモデルとし、
オフシーズンに入り閑散としたメイン州の避暑地を訪れた都会の男女6人が、
その地に密かに棲みついていた食人族に襲われるというもの。

オフシーズン (扶桑社ミステリー)
オフシーズン (扶桑社ミステリー)

91年には、11年後の同地で再び食人族による襲撃事件が起こるという続編『襲撃者の夜』も書かれている。

襲撃者の夜 (扶桑社ミステリー)
襲撃者の夜 (扶桑社ミステリー)

近年ジャック・ケッチャム原作小説の映画化作品が続く中で、この二作品も映画化企画が進んだのだが、
怜悧な傑作スリラー『ジャッカー』(88)等で知られる
エリック・レッドによる『オフシーズン』の映像化は残念ながら実現に至らず。

続編小説のみが、ケッチャム自身の脚本で、
同じくケッチャム原作の『隣の家の少女』(07)をプロデュースした
アンドリュー・ヴァン・デン・ハウテンの製作・監督で映像化された。

これが日本ではDVDリリースとなった『襲撃者の夜 食人族 Final』(09)だ。

襲撃者の夜 [DVD]
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襲撃者の夜 食人族Final 予告編 - YouTube

映像化された『襲撃者の夜 食人族 Final』は、ゴア描写自体はそれなりに健闘している部分もあるものの、
原作に比較的忠実な展開と書けば聞こえがいいが、
原作映像化作品にありがちな薄味ダイジェストの印象が強く、
読後にトラウマを残しかねないケッチャムの映像化としてはかなり物足りないものであった。

そして『オフシーズン』、『襲撃者の夜』に続く食人トリロジー最新作となるのが、
本作(そして原作の)『ザ・ウーマン』である。

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本作もアンドリュー・ヴァン・デン・ハウテンがプロデュースに名を連ねてはいるものの、
本作には前作とは大きく異なるプラス要員が加わっている。

メガフォンを執ったラッキー・マッキーの存在である。

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ラッキー・マッキーは02年の『MAY-メイ-』で単独長篇監督デビューを果たす。

MAY メイ APS-30[DVD]
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この作品は、孤独に生きる純粋で内気な少女が、最高の友人をもとめて狂行に向かう様を、
リリカルにかつ痛みを持って描き出したガーリー・スラッシャーの傑作だった。

May (2002) - Official DVD Trailer - YouTube

その後も、30歳の若さでTVシリーズ“マスターズ・オブ・ホラー”の『むしおんな』(05)でマスターの殿堂入りを果たし、
『怨霊の森』(06)などのホラー作品を発表していくマッキーだが、
同時にクリス・シヴァートソン監督の『THE LOST ザ・ロスト 失われた黒い夏』(05)ではプロデュース、
『老人と犬』の映像化で残念ながら現時点では日本では未公開の『Red』(08)では共同監督と、
ケッチャムの映画化作品群の中でも、ドラマ性が高くやるせないと高く評価される作品に参加し、
ケッチャムとの親和性のよさを発揮してきたのだ。

THE LOST -失われた黒い夏- [DVD]
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Jack Ketchum's The Lost: International trailer - YouTube

そして『ザ・ウーマン』。

本作はケッチャム&マッキーの最恐タッグによる現時点での到達点と言い切っても差し支えないだろう。

ザ・ウーマン (扶桑社ミステリー)
ザ・ウーマン (扶桑社ミステリー)

脚本をケッチャムとマッキーが共同で担当しているのに留まらず、
本作公開直前に日本でも翻訳が出た原作小説も、
ケッチャム&マッキーとの共著となっていることからも、両者の共同性の強さがうかがわれる。

そして、映画の方は、全体としては落ち着いたトーンの中で、
“ザ・ウーマン”をスパイスとしながら、一家の危うい関係を丁寧に綴っていく。

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隣人の土地を買い敷地を広げていくヘンリー、夏でも露出の少ない服装のペグなど、
細かい描写に秘密の端緒をのぞかせていく語り口も心にくい。

そんな中に挿入されていく“ザ・ウーマン”に向けられる調教・飼育はもちろん情け容赦なく強烈なのだが、
それを受ける“ザ・ウーマン”の苦痛と恥辱にまみれながらも、
生をうる為の純粋殺人者としての本能を失わない佇(たたず)まいも素晴らしい。

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“ザ・ウーマン”役のポリアンナ・マッキントッシュは、
『襲撃者の夜 食人族 Final』からの続投だが、前作をはるかにしのぐ好演だ。

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特に拉致されたばかりの時に、主人であることを教え込もうとするヘンリーの指を隙をみて喰いちぎるまでの
一連の場面での表情は、ゾクゾクするほど素晴らしい。

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また、良妻としての顔に隠された精神状態はテンションいっぱいな妻メグを、
『MAY』のタイトル・ロールや『むしおんな』のヒロインなど、
初期マッキー作品での痛々しいミューズぶりで魅せたアンジェラ・ベティスが、
すっかり大人の(でもやはりどこか箍の外れた)姿で演じているのもファンには嬉しいところ。

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そして物語は、ブライアンの凶行とペグを気遣う女教師の家庭訪問をきっかけに、
まさに怒涛のクライマックスに突入する。

ここでは勿論、その詳細に触れこれから作品を愉しむ方の興を殺ぐようなことは控えるが、
日常的な筈の空間が、見世物小屋のヤバさを発し、
そこで繰り広げられる残酷なメロドラマと血の饗宴は、
フランスの大衆芝居を起原として、国産ホラーの旗手、高橋洋も標榜する
グランギニョール的世界(彼の脚本作では『インフェルノ 蹂躙』(97)、『蛇の道』(98)などと共通する)に他ならない。

犬が激しく吼えまくるのも、だから激しく当然なのだ。

そして、饗宴が終わった後の結末には、これまたハッピー・エンドであるかのような不思議な感動すら覚える。

というわけで、今年上半期の私的ベストホラー『ラヴド・ワンズ』を軽く超え、
冒頭書いた通り、今年年間のベスト・ホラー、いやベスト作品になる可能性も大。

是非、劇場に足を運んで欲しい。

映画『ザ・ウーマン』予告 [HD]10月20日公開 - YouTube

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ザ・ウーマン
THE WOMAN
2011年/アメリカ/104min
配給:エクリプス/宣伝協力:TRASH-UP!!
2012年10月20日(土)よりシアターN渋谷にてモーニング&レイト・ロードショー!
(C)2011 BY MODERN WOMAN LLC ALL RIGHTS RESERVED

映画【ザ・ウーマン】公式サイト

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