ごきげんよう、殿井です。
本日ご紹介するのは明日(6/30)公開の本格アウトロー・ノワール『プレイ−獲物−』。
映画祭で最優秀スリラー賞に輝くかなりの快作でありますわよ♪
いつものように、まずは粗筋をば。
銀行強盗で服役中のフランクは、
捕まった際に盗んだ大金をまんまと隠し通し、
刑期を終えたら妻子と豊かな生活を送る腹積もりでいた。
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だがその金を狙ってフランクに迫る収監者が少なからずおり、
さらに少女暴行犯の冤罪を着せられたと主張する
同室の大人しそうなモレルを彼に迫る囚人から助けたことで、
フランクはリンチにあわされ負傷した上に騒ぎをおこしたかどで刑期も延ばされてしまう。
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逆に釈放が決まったモレルは、恩人であるフランクを助けたいと申し出、
フランクはモレルに妻へのメッセージを託すのだった。
ところがモレルの出所後、憲兵だと名乗る男がフランクを訪ねてきて、
モレルについて問いただしてきた。
彼の話に寄れば、モレルは抜け目の無い極悪人で、
彼にかけられた暴行殺人の嫌疑は疑う余地がないのだという。
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不安を覚えるフランクだったが、それは残念ながら現実となり、
彼の妻子との連絡がつかなくなってしまったのだ。
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フランクは看守ぐるみで再び企てられたリンチの際に、
隙を突き反撃に転じるとそのまま脱獄を敢行。
なんとか自宅に帰り着くも、そこは既にもぬけの殻だった。
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フランクは妻子とモレルの行方を捜し求めるのだが、
モレルによる新たな殺人の嫌疑もかけられ、警察の激しい追及を受け…
当たりの多いジャンルだが、
そんな中でもこれはかなり興奮度の高い、フレンチ・ノワールの快作。
ミステリー・スリラー・アクションジャンルを対象とする
“コニャック・スリラー映画祭”では最優秀スリラー賞を受賞している。
刑務所ものからスタートし、逃亡・追跡劇へと推移していく本作だが、
モレルを信頼したがために、裏切られ事件にいわば巻き込まれていくフランク自身が
“漢気”溢れる孤高の好漢であっても、
所謂善人ではなくアウトローであることがスパイスとなっており、
それ故に警察側やモレルの動き等のフランクへの追い詰め方も半端じゃないものになる。
これらを描く際の超人とは程遠い人間達が魅せる生身のアクション描写もリアルで熱い。
中でもフランクが警官に追われて階上の住処からダイヴし、
車が飛ばしまくる高架道路を車と接触しながら逃げ、
さらに高架下の線路を爆走する列車に跳び移るまでの一連のチェイス・シーンは本編中の白眉だ。
主人公のフランクを演じているのは、
コメディ、ドラマ、アクション等ジャンルを選ばぬ作品群で存在感を発揮している
アルベール・デュポンテル。
デュポンテルといえば、孤児院で30年を過ごしたお頭の弱い主人公が、
勝手な思い込みで生き別れた家族との理想の生活を実現すべく凶行に突っ走る姿を、
主演兼初監督で描いたヴァイオレンス・サイコ・コメディ『ベルニー』(96)がやはり忘れ難い。
これ、日本でもDVDにならないかしら。
◎『ベルニー』(96)
この他フレンチ・ノワール系の『ブルー・レクイエム』(04)では、
アウトローではなくある目的をもって危険な現金輸送車の警備員となった
平凡な主人公役を、哀しみを湛えた静かな佇まいで演じていて印象的だった。
◎『ブルー・レクイエム』(04)予告編
その他のキャストでは、
穏やかそうな外見に狂気を秘めたモレル役は、
『ハプニング』(08)等のハリウッド作品にも出演しているステファン・テバク。
フランクを追う敏腕女刑事クレール役は、
『ナイト・オブ・ザ・スカイ』(05)等のアリス・タグリオーニ。
そしてフランクにモレルのことを知らせる憲兵カレガ役を、
前々回紹介の『ブラック・ブレッド』(11)のセルジ・ロペスが演じている。
監督のエリック・ヴァレットは、
『ワン・ミス・コール』(08)で既にハリウッド・デビューも果たしている
フランスの新鋭…という紹介だと、逆に印象を悪くしてしまうかしら?
いや、オリジナル『着信アリ』に比べれば、
このリメイク版の方がまだ楽しめる作品になっていたと個人的には思うんだけどね。
本作は多少サイコ系要素は含まれているものの、
基本的には非ファンタスティック系犯罪ドラマだが、
元々ヴァレットが注目されたのは、
ジェラルメ・ファンタスティック映画祭の審査員特別賞等を受賞した
長編監督デビュー作『マレフィク 呪われた監獄』(02)。
この作品の舞台は邦題からもわかるとおり、
本作の前半と同じく刑務所ものながら、
そこで壁の中から見つかった古い日記に、
願い事を叶える黒魔術の方法が記されていたことから、
脱走を試みる囚人の心の闇が暴かれていくという『猿の手』風怪奇譚の秀作で、
未見のホラー・ファンにはお薦めだ。
◎『マレフィク 呪われた監獄』(02)予告篇
また本作の前に米=独合作として製作された監督作『ハイブリッド』(10)は、
自動車に擬態し人間を襲う不定形エイリアン?と人間の戦いを描いたモンパニ版『ザ・カー』風作品で、
噴飯ものの設定の低予算作品ながら、
自動車修理工場の建物内というミニマムな状況での
サスペンス&アクションはそれなりに効果的で楽しめる。
◎『ハイブリッド』(10)予告篇
近年のフレンチ・ファンタ系クリエイターとしては
『ハイテンション』(03)『ピラニア3D』(10)等のアレクサンドル・アジャ、
『屋敷女』(07)等のジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ、
『マーターズ』(07)等のパスカル・ロジェらに比べると、
日本での知名度はもう一つな印象だが、
非ファンタ系作品ながら燻し銀ともいうべきその実力を十全に発揮した本作で、
ジャンル・ファンならばあらためてエリック・ヴァレットに注目せよ!
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『プレイ−獲物−』
PA NEGRE
2010年/スペイン/104min
配給:エプコット
2012年6月30日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次ロードショー!
(c)2011 / BRIO FILMS - STUDIOCANAL - TF1 FILMS PRODUCTIONS - Tous Droits Reserves
▼「プレイー獲物ー」オフィシャルサイト
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