顔ぶれ豪華で無理やり日本縦断する凄い犬「犬笛」

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拝「今日はアメリカンドッグなのだ」
テーブルには、アメリカンドッグの盛られた皿があった。

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拝「"アメリカンドッグ"は和製英語で、本当は"corndog"って言うんだって。
食べ物に"dog"って、犬食べるわけじゃないのに、何か変だね…」

今日取り上げる映画は『犬笛』なので、"犬=dog"という駄洒落で攻めて来たみたいだ。

武「確か、フランクフルトソーセージの見た目が、犬のダックスフントに似ていたから、そう呼ばれるようになったと聞いた事があります」

拝「そうなのか…モヤモヤしていたのが、少しすっきりしたぞ。
ところで、今日はこんなのも頼んでおいたんだ」

テーブルにあるもう一つの皿には、やはりアメリカンドッグが盛ってある。でも、ケチャップではなく、なにか白いものがかかっている…。

拝「それ、"フレンチドッグ"って言うんだ。かかっているのは砂糖。
なんでも、北海道の道東で良く食べるそうだよ、釧路とか」
多分、"フレンチ"なんて名前がついていても、フランスとは何ら関わりがないはずだ。
アメリカンドッグの姉妹品だからって、なんて乱暴でザックバランなネーミングなのだろう…。

この甘さでは、酒にはちょっと合わなような、場違いな食べ物のような気がするが、
編集長は「え?そんな事ないよ。お酒と合っていて美味しいじゃん」なんていいながら、フレンチドックをツマミに平然と日本酒を飲んでいるけど、この人、こんなに甘党だったのか…何だか見ているだけで気持ち悪くなってきた。

アメリカンドッグの方を食べながら、先に進める事にしよう。

『犬笛』は、1978年に公開された西村寿行原作のミステリー映画。

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↑70年代東宝お馴染みの豪華スターの宣材写真縦並びポスター

海運会社に勤める秋津四郎(菅原文太)の、七歳になったばかりの娘が何者かに誘拐され、警察の大掛かりな捜査にもかかわらず、行方は全くわからなかった。
そのために、妻(酒井和歌子)は心労で精神に異常をきたしてしまう。秋津は、職をなげうって一人誘拐犯を追う事に決めた。
娘は、犬笛(ゴールド・ホイッスル)を聞くことができる特殊な聴力を持っていた。それだけを頼りに、飼い犬のアイヌ犬、鉄を連れて、秋津は果てない追跡を続ける。
犯人達の卑劣な罠にも負けずに執念で追いかける秋津を見て、功名心ばかりだった小西刑事(北大路欣也)や、犯罪組織の手先だった精神科医、規子(竹下景子)も、いつしか協力してゆくようになる…。

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↑犬笛。後の「黄金の犬」の島田陽子も衝撃的だったが、雪原に下着で横たわる竹下景子にドキドキ

日本映画界が誇る大スター、三船敏郎の主宰する三船プロダクション創立十五周年を記念して製作した作品。タイトルから動物映画のようなイメージがあるが、犬よりも菅原文太の執念の追跡をメインに描く作品である。
長らくテレビシリーズを作り続けて来たプロダクションが、『二人だけの朝』(71)以来七年ぶりに製作した劇場用映画。そのために、全体的にかなり気合の入った豪勢な作りとなっている。


偶然殺人を目撃してしまった娘が誘拐され、それを主人公とアイヌ犬が追いかけるという単純な構成の物語を、日本縦断ロケだけでは飽き足らずに、海外までも舞台にして撮影するという、大風呂敷な構成で見せてくれる。
スタンダードサイズで製作された映画にもかかわらず、大作映画の風格を充分感じさせる作品だ。
見どころは、創立十五周年のご祝儀ともいえる配役の豪華さ。

主人公の菅原文太はヤクザ風ではない、珍しく普通の役を演じている。

そして、主人公に協力する刑事に北大路欣也

犯罪組織で娘を誘拐する原田芳男

その凶暴な部下に小林稔侍

犯罪組織の手先の精神科医に竹下景子

発狂ぶりが生々しい母親役の酒井和歌子

他にも若林豪、勝野洋、村野武範、神山繁、竜雷太、坂上二郎、川地民夫、浜田光夫、かたせ梨乃、室田日出男、大滝秀治、山村聰、伴淳三郎、小池朝雄、鈴木瑞穂、北村和夫、加藤武、高橋昌也…
と、三船プロ馴染みの俳優からそうでない俳優まで、実に多彩である。

ここに、社長であり国際的スターの三船敏郎が加わり、ラストシーンでは主役を抑えて、まるで主役のように映画を締めている。
この当時盛んに作られていた角川映画でも豪華な脇役陣をそろえていたが、この映画に集まっている俳優たちは、それらと一味違う雰囲気だ。

原作は西村寿行の初期の作品で代表作の一本。元々は『娘よ、涯なき地に我を誘え』というタイトルで、日本中をさすらう大風呂敷な物語を見事に表わしていたが、後に『犬笛』という象徴的なものに変更されている。

拝「この映画、西村寿行原作なのに、描写が大人しいんだよね」

武「アクションシーン、かなりありますが…あ、拝さんは、そっちじゃないか」

拝「西村寿行といえば、バイオレンスでしょ。ヒロインはみんな大変な目にあっちゃうんだ」
武「そういえば、竹下景子さんが小林稔侍さんに襲われるシーンがありましたが…」

拝「これから襲われるぞっていう所で、すぐシーンが変っちゃうんだ…う?ん、残念!さすが三船プロと東宝だけあって、品行方正な映画だ」

武「角川映画にある、ある種の見世物的なイメージが全然ない」

拝「菅原文太さんが、暴力刑事やヤクザじゃないというのも、三船プロ製作だからかもしれないね。しかし、本当に出演者が豪華だ。」
と、言いながら相変わらず拝さんフレンチドッグを食べている。そんなに食べて、血糖値はだいじょうぶかな…。

武「十五周年の御祝儀みたいな意味もあったと思われます。
でも、この一年後くらいに三船プロは分裂するんです。つまり、三船プロの最盛期の俳優陣が登場する作品と思って良いのではないでしょうか」

拝「だからか。タクシー運転手なんていうほんのチョイ役に坂上二郎さんが出ていたりしているのか…」

武「はい」

拝「ところで、岸田森さんもそういう意味での出演かな、出番が極端に短いけど…」

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↑怪しさ全開の岸田森

岸田森は、オリエンタル貿易の社員、池田を演じている。
殺された男の家に、預けたものを引き取りたいとしつこく訪問。
そこに居合わせた秋津(菅原文太)に怪しまれる。
その後、蓼科のロッジで、胸を刺されて天井からつるされた状態で発見。凶器のナイフに指紋が付いていたため、秋津は殺人犯だと疑われることになる。
セリフは一つだけの本当の端役だが、岸田森が演じた事で、怪しさが強調され、ほんの数秒の出演ながら印象に残る役だ。

拝「これだけ?」

武「はい。映画が始まって19分くらいにちらっと登場、その15分後に再登場した時には、すでにナイフで刺されて天井から吊るされていました」

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↑15分で殺されて吊るされる岸田森

拝「この役を岸田森さんというのは贅沢だね。前に見た時には、岸田森さんが出ているの気がつかなかった」

武「この映画、公開データでは139分になっているのですが、私の見たものは110分くらいのバージョンなんです。もしかしたら、岸田森さんの他の出演シーン、カットされているのかもしれません」

拝「長いバージョンを是非見て確かめたいね」

武「ところで、岸田森の演じる池田は、度々訪ねて来るというのだから、張り込んで尾行すれば事件の解決が早かったと思うのですが…」

拝「確かに。あまりにもあっさり岸田森さんの事をあきらめたね」

武「そういう構成が甘い所が、結構ある映画です」

拝「それは、原作がそうだからだよ。でも、西村寿行のパワフルな語り口で、読んでいる時にはそんな事気にならないんだ」

武「出演者も凄いし面白い作品だから、是非DVDを発売してほしいです」


拝「次回はどうしようか?」

武「『犬笛』は中島貞夫監督ですよね。この監督は、岸田森さんの遺作『制覇』を撮っています。それで行きましょう」

拝「これも出演者が豪華な作品だ。それでよろしく。じゃあ、次回もこの居酒屋で」

拝さんは、相変わらず砂糖がかかったフレンチドッグを食べ続けている。

武「…あれ、拝さん確か明日、健康診断だって言っていませんでしたっけ…」

拝「あ、忘れてた。でも、まあいいか」

武「これは、滅茶苦茶な数値が出て再検査というパターンですよ。特に血糖値が」

拝「今更だよ。覚悟して行って来るね。 "人間ドック"に」

拝さんニコニコしているが、これ多分駄洒落ですよね。
"dog"じゃなくて"dock"ですけれども…発音は似ているから、まあいいか。

(このブログはフィクションです。あなたが似ていると感じられる人が登場しているかもしれませんが、それは気のせいです)


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