謡わない若大将がクールに決める「狙撃」

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武井「拝編集長、元気そうで何よりです」

拝「べつに倒れたわけじゃないよ。確かにサーバー移転、大変だったけど」

しみじみと苦労を思い出している編集長の前には、茹で卵が山盛りに置いてあった。

「多分、固く茹でてもらっているんですよね、それ」

今日取り上げる映画『狙撃』は、邦画では珍しくハードボイルドタッチの映画。
ハードボイルドの語源は、固く茹でた卵…。
「本当はバーべキューにしようと思ったんだけど、シンプルな方が良いでしょ」

「何でバーベキューなんですか?」

別に、メニューに凝ってくれと言っている訳ではないが、これは、さすがに意味がわからない。

「知らない?爆風スランプのアルバム『ハードボイルド』。泣けるよ、あれ」

つまり、爆風スランプのバーべQ和佐田さんからか…とっとと本題にゆこう。


狙撃』は、1968年に公開された、加山雄三主演のアクション連作第一弾。

若大将シリーズ』などの明朗なキャラクターで人気のあったスター、加山雄三の新たな一面を開拓しようと作られた作品だ。

金塊強奪の手助けをした暗殺者が、相手組織の雇ったプロの殺し屋との攻防を繰り広げるといったシンプルなストーリー。

この作品の特徴は、極端なまでのストイックな描写と、専門的な銃器の扱いだ。

冒頭の狙撃シーンには、加山雄三のセリフは一切無し。無駄のない暗殺の段取りを、BGMも無いまま淡々と見せてゆくストイックな描写は、それまでの日本映画には無かったものだ。

劇中多数登場する銃は、トイガンデザイナーの六人部登が全面協力しているのも見所。

そのためもあって、赤外線暗視装置とサイレンサー付きのAK47や、モーゼルM712ルガーホークアイなど、それまでの邦画ではあまり重要に扱われていなかった銃器が、まるで主役のように扱われている。

ちなみに、六人部は、モデルガンの世界では有名な六研ブランドの設立者でもある。

1971年に改正された銃刀法によって、モデルガンは本物と区別するために大幅に規制を受けてしまう。その改正前に作られた、本物そっくりの迫力を持つモデルガンばかりが映画に使われているのが嬉しい限りだ。

また、拳銃専門の殺陣師が指導した、加山雄三や森雅之の抜き打ちなどは本当に見事である。
映画公開五年前、1963年にジョン・F・ケネディ暗殺、そして映画公開五か月前に、その実弟ロバート・ケネディ暗殺という大事件が起きており、狙撃が生々しく人々の記憶に焼き付いている時期の公開である。


拝「ストイックで凄腕の暗殺者って言うと「ゴルゴ13」みたいだね」

武井「偶然なんですが「ゴルゴ13」は、この映画公開とちょうど同じ頃から連載されています」

「知らなかったな…社会情勢かな」

「学生運動がこの頃盛んでした。東大抗争もこの年です」

「なるほど…話は変わるけど、この映画、浅丘ルリ子のベッドシーンが多いね」

「やはり、拝編集長はそこですか。全部で四回もあります」

「ベッドシーンというより、東宝らしくベッドでのシーンだね。でも、二度目のはシュールだったね…銃に弾を装着するシーンと、蝶の標本のカットバック、何だか生々しかった…」

加山雄三のボンゴで踊る浅丘ルリ子、というのもシュールでした」

「あったね、そんなシーン。浅丘さん、ノリノリだったし。

…そういえば、岸田森さんの事、まだ書いてないね。久しぶりに?岸田森的視点?ド?ンとよろしくね」


岸田森は、殺し屋加山雄三に銃器を提供する、ガンショップのオーナー深沢を演じている
米軍基地の近くに店を構え、加山雄三の求めに応じてどのような銃でも揃えてしまう。
左翼崩れでアナーキーな思想を持ち、加山雄三の殺し屋に自分の理想を託すという、歪んだ信頼感を抱いている。

役柄上、銃器を扱う専門的なシーンが多いが、そういうセリフに説得力を持たせるのは、岸田森の独壇場ともいえる演技だ。

ちょうど『怪奇大作戦』を放送し始めていた時期で、見た目が牧史郎とそっくりなだけに、ひねくれた言動に違和感があって面白い。
今見ると余計屈折した感じが強調されているような印象を受ける。
惜しむらくは、登場シーンが少なく、物足りないところか。

ほかにも、凄腕の殺し屋を演じた森雅之の存在感が抜きん出ていた。
スポーツ感覚の殺し屋加山雄三よりも、プロフェッショナルとしての凄みを見せる森の存在感が圧倒的だ。使っている武器がドイツの軍用銃という、機能重視なところもいかにもという役作りだった。

森雅之は、『雨月物語』『浮雲』『羅生門』など、数々の名作に出演した名優だが、あまり、スポーティーな印象は無かった。
それが、驚くべき事に、映画では拳銃抜き撃ちや、全力疾走をきっちり見せてくれる。
実は、森雅之はプライベートではスポーツマンだったらしい。
印象というのは案外あてにならないものだ。

ほかにも、森雅之の情婦役としてサリー・メイが出演。この作品が映画初出演で、たいしたセリフも無い飾り物のような役ではあるが、後に日活で『らしゃめんお万』シリーズで主役を演じているのが驚きだ。

拝「映画が短いから出演者は絞られるけれども、みんな存在感あったね」

武井「日活から特別出演した浅丘ルリ子も、東宝女優にはないシャープな魅力を振りまいていました」

「浅丘ルリ子と言えば、劇中蝶の標本を集めていたけれども、あれは岸田森さんの?」
「それが、残念ながら違うんです。調べてみた所、大場衛さんというコレクターのものなんです…って、拝編集長、何やっているんですか?」

「いいでしょ、これ。昔良く作ったな…」

さっき、店員さんに割り箸貰っていると思ったら、楽しそうに割り箸鉄砲を作っていた。何を狙撃するつもりだろう…こちらにだけは向けないで欲しい。

拝「ところで次回だけど、連作第二弾『弾痕』にしようか」

武井「はい、そうしましょう。これも加山雄三主演ですね」

拝「割り箸鉄砲も使えるし。じゃあ、次回もこの居酒屋で」

武井「はい…」


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